あなたのウ○コに値が付く時代が来る!?(腸内細菌の話その2)
2019/03/31
腸内フローラは人種や地域によっても違う
それは食生活の違いによるものと考えられますが、人種や生活地域によっても腸内フローラに違いが現れます。欧米の人たちは海藻類をほとんど食べません。それに対して日本人の食生活の中には多くの海藻類が見受けられます。長い間の食生活がもたらしたのでしょう、日本人の腸内細菌を調べると海藻類の分解能力に優れた菌種が見出されます。おそらく海藻類を食料として摂取したときに海藻と一緒に体内に取り込まれたか、その遺伝子が他の細菌にコピーされたものと思われます。ことほど左様に腸内細菌のルーツをたどってみると日常の食物との因果関係がうかがわれるのです。当然のことながら欧米人の腸内フローラには海藻を分解する菌類はほとんど存在せず、結果として彼等は海藻を消化して栄養分を吸収することができません。
人体の必須栄養素でもあるヨウ素について調べてみました。ヨウ素は海藻類に豊富に含まれる栄養素の一つで、甲状腺ホルモンの重要な構成要素であり、人体の代謝維持や子供達の正常な発育や発達に欠かせないものです。ヨウ素が不足すると甲状腺腫になったり、子供の場合は発育障害や精神遅延が起こり、聴覚や認知機能への影響も出ます。
オーストラリアやニュージーランドではヨウ素欠乏症が多く、古くから風土病として畏れられてきました。原因としてはオーストラリア・ニュージーランド地方の土壌にはもともとヨウ素の含有量が少なく、その土地で採れた食品のみを食べていると必然的にヨウ素欠乏症になってしまうということのようです。そこでそれへの対策として食卓塩にヨウ素を添加して摂取量を高めるといった努力がなされています。世界的に見るとヨウ素欠乏が問題視される地域の方が圧倒的に多く、世界人口のほぼ3割に当たる16億人が欠乏症に苦しんでおり、ヨウ素添加塩を採用している国が多数派となっています。(右の世界地図で黒塗りの地域は欠乏地域)
一方ヨウ素摂取量が多すぎる国もあります。代表的なのが我が日本です。WHOによる摂取基準に当てはめると過剰摂取による健康被害(自己免疫性甲状腺疾患や甲状腺機能亢進症)が出てもおかしくないレベルなのだそうですが、実際のところ日本ではそのような健康被害は出ていませんので、どうやらWHOの基準そのものを見直す必要がありそうです。
どうして日本人はヨウ素の摂取量が多いのか、もうお分かりですね。海藻、特に昆布の消費量が多いからです。日本人は昆布そのものを食品として食べるほか「だし」としても用いるため日常の摂取量が圧倒的に多いのです。日本人と違って海藻を食べる食習慣のない欧米人の場合、急激なヨウ素の摂取は有害な影響が出やすいとされています。そのためヨウ素の上限摂取量というものが設けられており、乾燥海藻製品は健康リスクがある危険な食品として販売に規制が設けられています。欧米人にとって昆布は食べ過ぎると危険だよとされる「ご禁制品」扱いなのです。
欧米で設定されている食品の基準値が日本の実態にふさわしくない事例は、海産物に含まれる他のミネラル成分(水銀、ヒ素、カドミウムなど)にもあります。食生活に関して、欧米が先進国で日本は遅れているなどと考えるのは大きな間違いだと思います。当然のことながら食習慣の異なる人種によって、腸内フローラにも大きな隔たりがあることは想定されるべきことで、フローラの機能の違いから、食品によってはそれが有害であったり有益であったり評価が変わるのは無理からぬ話です。
昨今のようにいかにグローバルな世界観がもてはやされても、地域事情や食文化に十分な配慮がなされずに決められた世界基準などというものは、実は百害あって一利無しと判断して良いケースもあるようです。