あなたのウ○コに値が付く時代が来る!?(腸内細菌の話その3)
2019/03/31
体に棲み着いている細菌達は侵入する病原菌を許さない。
私たちの体の内外には様々な細菌が棲んでいます。髪の毛からつま先まで、そして口の中からおしりの穴にまでそれぞれの環境に適合した菌がいわば「なわばり」のようなものを作って子々孫々世代を重ねています。これらの菌群を「常在菌」と呼びます。常在菌の多くはそれぞれの生息場所を先祖代々独占する優占種のような存在で、生息場所や栄養分を確保しているため、他から侵入してきた病原菌などがその場所に定着しにくい状態を作り出しています。また常在菌が栄養分を分解してできた物質が、侵入者の棲み着きにくい環境を作っていることもあります。たとえば皮膚の表面には脂質を含む皮脂や汗が分泌されていますが、常在菌がこれらを分解すると脂肪酸などの酸性の物質ができます。これらの物質は皮膚を弱酸性に維持し、病原菌の定着を妨げます。ちなみにこの酸性物質は体臭の元になるもので、体臭を気にする現代人の中には、このメカニズムを阻害する様々なグッズにかなりの散財をされる方もおられるようです。また常在菌の中にはもっと積極的に病原菌を攻撃する物質を分泌したり、人体の細胞に病原菌の侵入を知らせるシグナルを送って、人体の免疫機能の出動を促すものまでいます。
他の菌を攻撃する物質を抗菌物質と呼びますが、現代の医療に欠かせない「抗生物質」の多くはこの抗菌作用を強化したものが大部分で、人為的な遺伝子操作によって抗菌物質の分泌能力を高めた菌類に作らせるという製造方法が主流となっています。
私たちの持っている病気に対する防御システムは、常在菌との共同作業で成り立っている場合が多く、昨今はやりの「キレイキレイ」やデオドラントのし過ぎは、病原菌と一緒に常在菌までをも排除してしまい、本来の防御パワーを損ね、他の細菌類の侵入を許すことになりかねないことも知っておかなければなりません。
これらのいわゆる自然のバリアとも言える人と常在菌との共同戦線は、当然のことながら体表だけでなく人の体内にも存在し、常在菌の多さから言うと腸内、特に大腸内では極めて重要な役割を果たしています。小腸や大腸に生息していることから、これらの常在菌を特に「腸内細菌」と呼びますが、腸内細菌は腸内のあちらこちらに同じ菌種同士が集団で生息しており、まるでお花畑のように百花繚乱の有様から、腸内細菌叢(そう)とか腸内フローラと呼ばれることがあります。腸内フローラは指紋のようなもので、人それぞれ異なった細菌類の組成になっています。夫婦や親子・兄弟、たとえ一卵性双生児でもフローラの内容は微妙に違うものになるのだそうです。全く同じものを食べ、同じ空気を吸ってきた人間はいませんので、同じ腸内細菌の組成を持つ他人はいないのです。法医学の分野では人物同定の手段として、腸内細菌の組み合わせをまるで指紋のように利用できることが報告されています。
人間の体の全細胞は60兆個とされていますが、それに対して腸内細菌の数は数百兆個を超え千兆個にも達するのではないかと言われています。私たちの全体重の内約1.5キログラムは腸内細菌の重さで、毎日排せつするウ○コの重さの3分の1は腸内細菌が占めていることも分かっています。
良く耳にする善玉菌とか悪玉菌などの呼び方は、個々の細菌を培養したときに見つかる、細菌の作り出す酵素などの有用性や毒性によって便宜的に区分されていますが、実際のところ生まれてこの方、私たちの腸内で代を重ねて来た細菌達に良いも悪いもあるわけがなく、悪いものであるならば、とっくのとうに人の免疫などの防御システムにより体内から追い出されているはずです。すなわち悪玉呼ばわりされる菌であっても、善玉菌との複雑な共生関係のようなものもあり、一概に排除すべき対象とみるのは大きな間違いだとする見解が近年の主流になっています。
皆さんは悪玉菌の代表格のように思われている「大腸菌」の名前を聞くと、何か不潔な悪い菌のように思われるかも知れませんが、ある調査では、アレルギー症状を示す幼児の便からは大腸菌が見つからなかったという報告もあり、大腸菌とアレルギーとの微妙な関連性が浮かび上がって来ています。一見「悪」に見える人物が実際は情にあふれた優しい人であった、などと言うことは私たちの人間関係でもしばしば見受けられることで、腸内細菌と言えども安易に善悪のくくりをしてはいけない格言のようなものを感じます。