フコイダンと魚病抑制効果
2019/08/20
フコイダンは、昆布やもずく、わかめといった海藻類に含まれるネバネバ成分で多糖類の一種です。
1913年にスウェーデンのウプサラ大学にて、スウェーデン人のキリン教授に発見されたフコイダンは、胃がんの原因といわれるピロリ菌の抑制効果や生活習慣病の改善に効果が期待できることから、多くの研究機関で研究が進められています。フコイダンを使用した人間のサプリメントや健康食品は、広く市場に出回っているので耳にしたことがある方も多いかと思います。
数年前、広島県水産技術センターからオキナワモズクから抽出された多糖類、フコイダン が魚をウイルスから守るという研究成果が報告されました。
この技術開発は、ヒラメの研究部門で行われ、飼育水にフコイダンを投入することで、
ウイルスが原因とされる疾病の発症リスクを低減できること、発症した魚が出てもフコイダンがウイルスの活性を押さえ込むことで感染の広がりを抑えて生存率が高まることなどが報告されています。
魚類のウイルス疾患は個々のウイルスに対応したワクチン投与がこれまでの通常の治療法とされていますが、魚病を引き起こす多種多様なウイルスに対してそれぞれのワクチンを開発するのも投与するのも経済的な負担は大きく、ビジネスとしての養殖業にとってはかなり頭の痛い対策方法でした。
ところがフコイダンが持つ網目構造のネバネバはウイルスの種類を問わず、ウイルスというウイルスを絡め取り、動けなくしてしまうという、きわめておおざっぱでアナログなメカニズムによりウイルスの活性を押さえ込んでしまいます。この方法であれば、数種のワクチンを使い分けるような繊細な治療方法に比べてコストも安く、専門知識も不要となります。
実は養殖の世界のみならず、私たちの観賞魚の世界においてもまだ原因の分からない(おそらくウイルスが原因であろう)魚病がいくつもあります。残念ながら養殖の世界と違って魚病の専門家が原因や治療方法を教えてくれることはありません。ショップの店員さんの中にももちろん専門家がいようはずもありません。また製薬会社が市場規模の小さい観賞魚用の薬剤開発に膨大な研究費を投じることなど絶対にありません。どのような方法であれ、私たちの大切な飼育魚は私たち自らが守らなければならないのです。
海水魚をお飼いになられる方が必ず遭遇する壁は 白点病 との戦いです。ショップでは元気に泳いでいたきれいな海水魚をご自分の水槽に入れて数日の内に、体表に小さな白い何かが見えたと思っている内に見る見る元気がなくなり、やがては死んでしまうという悲しい、かつ悔しいご経験をほとんどの方がお持ちと思います。
昔から白点病には硫酸銅という治療法が浸透していて、水族館をはじめとして多くのマニアが銅イオンを投入する治療方法に頼っていました。毒をもって毒を制すという発想です。投入濃度を間違えなければ確かに効果を示すこともありましたが、銅イオンはやがて底砂や濾材に沈着してしまい、そこに棲息する有用な微生物群の活動も制約するというマイナスの事態も引き起こしていました。また無脊椎動物と同居している魚類には使う事はできませんでした。
白点病は白点虫という、ウイルスに比べればはるかに大きな寄生虫によって引き起こされるのですが、フコイダンの網目構造は白点病にも効果があるようなのです。白点虫の生活史の中の仔虫(シストと呼ばれ、底砂の中に隠れている)の世代であれば編み目に捉えられている気配が感じられるのです。でもまだそのことを誰も実証していません。結果として白点病の発生が激減したという多くの声が聞こえてきているだけです。それでも白点病の脅威におびえていた海水魚ファンにとっては明るい光明となったようです。一度効果を知ったユーザーはフコイダンを手放すことができなくなります。特に商品である魚の生残率が利益を大きく左右するショップ側にとっては、存続に関わる必需品となっている感がします。
海水魚飼育のベテラン諸氏は水槽の底掃除は滅多にしないか、もしくはかなり慎重に行っています。それは底砂の中に隠れている白点虫のシストを飼育水に巻き上げないためです。底掃除の後には必ず白点病が現れることを経験的にご存じだからです。
海水水槽の底掃除は 白点病を引き起こす御法度 としてこれまで避けられていたのですが、フコイダンを投入することで、安心して底掃除ができるようになりました。底掃除の後にはフコイダンを通常の2倍程度の濃度で飼育水に投入して下さい。これで白点病への不安を払拭することができます。同時に餌に混ぜて与えることで、魚類が本来持っている病気への抵抗力を高めることもできますので、相乗効果が期待できます。
私は若い頃ダイバーをしていましたので、自然界における魚の 死に様 をいくつも見ています。死に行く魚の共通の姿は体表が白くなっていることです。死に瀕した魚体は白点虫の格好の寄生場所なのでしょう。おそらく病気や他の要因で体力の衰えた魚が最期を迎える時には白点虫が体表を覆い、その魚体から栄養分を摂取して次の世代に命を繋ぐ糧にしているのだと思います。白点虫はいわば海の掃除屋さんの一員なのでしょう。白点虫は海のどこにでもいて、生命の尽きかかった生物の体表を探し求めているのではないかと想像しています。白点虫には白点虫なりの生きている理由があるのです。
自然界と同じとは言えませんが、水槽の中にも似たような生態系があり、水底に隠れた白点虫は飼育されている魚類の健康状態を敏感に察知して、寄生する機会をうかがっているのだと思います。
その想像が正しいとするならば、私たち飼育者が心がけねばならないことは明らかです。水槽のコンディションを良好に保ち、栄養価の優れた餌を与え、飼育生物が感じ取るストレスを可能な限り減らす努力をしなければなりません。
フコイダンが白点虫の活性を押さえ込んでいるのか、魚類の抵抗力が白点虫の寄生を拒んでいるのか、その辺のメカニズムを解明するには私たちは非力すぎます。発売以来これまでフコイダンを使われている多くの皆さんの経験から導き出されるのは、フコイダンを飼育水に添加することで、これまで私たちが知る術もなかったウイルス性の疾患が抑制され、合わせて魚類の抵抗力も高まり体表粘液が厚く維持されることから、白点虫の寄生を免れることができるということのようです。白点病は二次感染、三次感染として表面化するもので、そもそもの病気の発端がウイルスによって引き起こされるとすれば、その時点での防御が叶えば白点病には至らないのではないかと愚考いたします。
皆さんのご見解を是非お知らせください。