微生物資材とは その3 2024/11/22 実は光合成細菌を開発する過程でメダカの腸内細菌を調べてもらったことがあります。メダカの水槽に光合成細菌を投入すると、メダカの腸内細菌の一つとして同じ光合成細菌が見つかることがあるのです。おそらく餌と一緒に光合成細菌がメダカの体内に取り込まれ、それが腸内で見つかったのでしょう。それが腸内細菌として定着したものなのか、たまたま通過中であったのかは定かでありませんが、飼育水中のバクテリアが飼育生物の消化器の中に取り込まれる可能性の一つとして捉えています。 人体に対するバイオジェニックスと同様に、他所で培養した有用な発酵物質を飼育水に投入することで、飼育生物の健康やあるいは水槽内の微生物環境に有意な変化をもたらす可能性があることになります。 3 死んでいても役に立つバクテリア 水槽にバクテリアを投入することには2つの目的があります。一つはバクテリア自身を働かせることです。分解したり、合成したり水槽内の物質循環の中で役割を果たさせるのです。水槽には飼育生物の餌として日々様々な有機物が投入されますが、それらは生物の排泄物や残餌として水槽内に蓄積することになります。これを放置すれば水槽環境は崩壊します。そうならないのはそれらを分解、無害化するバクテリアが働いてくれるからです。分解されるターゲットが過剰にあるならば、多少多めの助っ人を投入しても分解効率が上がりこそすれ邪魔になることはありません。 もう一つはバクテリア自身の体内の成分に意味があります。バクテリアは弱肉強食の自然界に身を置いているわけですから、彼等を捕食する天敵も必ずいることになります。水槽内の微生物群の中にはバクテリアよりも大きい原生動物と呼ばれる生物群も同居しており、彼等のメインディッシュはバクテリアなのです。バクテリアは餌があれば、その量に比例して数を増やしますが、無秩序に増え続けるわけではなく、その一部は原生動物の餌としてやがて捕食される宿命にあるのです。バクテリアの数は餌の量と原生動物の数によって微妙な増減を繰り返します。原生動物もまた餌となるバクテリアの数によって増減することは論を待ちません。 バクテリアの中には健康食品の補助材として商品化されているものもあります。乳酸菌には生きている 生菌 と死んでいて粉末処理されている 死菌 と呼ばれるものがあります。生菌はヨーグルトや乳酸菌飲料、キムチや漬物などに入っていますが、死菌は 「当社の青汁には100億個の乳酸菌が」 というあれです。乳酸菌は生きていなくてもそれなりの健康増進効果がありますから、生菌に大きく劣るということはありません。死んだバクテリアがどうして役に立つかといいますと、バクテリアの体の中にはバクテリアが生産する物質に匹敵する有用な成分が含まれているからです。死菌であってもそれが腸内に届くと先住者の腸内細菌によって分解されその体内成分が取り込まれます。そのことによって既存の細菌の活性が高まるのであれば、生菌が働くのと遜色のない効果が期待されることになります。 このパターンを私たちがよく知っているPSB(光合成細菌)に当てはめてみましょう。あの赤くて臭い液体の中にはPSBという生きた菌と、彼等が増殖するときに菌体外に放出した様々な有用成分が含まれています。水槽に赤い液体を放り込むということは、生きた菌と一緒にその有用成分も入ったことになります。培養液の中にPSBの餌の成分が残っていれば、あの赤い液体にはプロバイオティクス、プレバイオティクス、バイオジェニックスの3つの要素が含まれていることになります。 私たちはPSBを自分で培養することがありますが、その培養環境はほとんど淡水に近い塩分濃度です。そこで培養されたPSBは塩分耐性の低いものと考えられます。このPSBを海水の水槽に入れたらどうなるのでしょうか。PSBそのものはそう長くは生きられないと思います。数時間もしくは数日のうちに死に絶えてしまうでしょう。でも海水水槽の水質には明らかに好結果がもたらされ、飼育生物の活性が上がるのをしばしば経験することがあります。どうしてでしょう? 海水水槽の中にも当然先住の微生物がいて、死んだPSBは彼等の餌になったからです。その結果先住微生物の活性が高まり、水質浄化機能が向上すれば結果オーライとなるのです。またPSBの菌体と一緒に投入された 赤い水の成分 もPSBが体外に放出した有用な成分を含んでいますので、PSBの体内成分と同様に先住微生物にはありがたい恵みになっているものと思われます。 畑の中には 放線菌 と呼ばれるバクテリアが棲んでいます。彼等は農作物に病気をもたらす病原菌をやっつけてくれる畑の守護神なのですが、畑にPSBを撒くと放線菌が元気になり、数も増えます。どうやら放線菌が、死んだPSBや赤い水の成分を食べて活性が高まるかららしいのです。このときPSBは生きている必要はありません。PSBは死してなお活躍をしてくれるのです。 水槽内にも放線菌に似た微生物が棲んでいるとすれば、飼育水にPSBを添加する意義もご理解いただけると思います。 発酵食品に囲まれた私たちですから、それらの中から水槽に投入できるものを探してみましょう。その可能性のあるものは乳酸菌、麹菌、納豆菌などですが、その効果は発酵させる相手方(有機物の種類)によって大きく変わるのではないかと思われます。近い将来、○○の発酵エキスなどというものが魚介類の特効薬として業界を賑わす日が来るかも知れません。