pH(ペーハー)を考える
2024/12/12
pH(ペーハー)を考える
pHとは何かという所から説明をしてみます。
pHは水中に存在する 水素イオン H+ の濃度を示す指標で、正式には(水素イオン濃度)と呼びます。
水はH2Oと書かれますが、厳密には H+ + OH- です。
酸性を示す水素イオン H+ とアルカリ性を示す水酸イオン OH- が1個ずつあって、お互いに+-で打ち消し合って中性になるのです。
さらに中性の状態を厳密に言うと、1リットルの水の中にH+もOH-もそれぞれ10-7gずつあることを意味します。
だんだん難しくなってきましたけど、もう少し付き合ってください。
10-7をわかりやすく書くと 1/107 つまり1/10000000(分母の0が7個ある)状態を指します。
水素イオンが10-7gの時の -7 からこの時のpHを7(中性)と呼び、これを境に数値が小さくなると酸性、大きくなるとアルカリ性となります。
数値が一つ減ると、分母の0が一つなくなりますので数値は10倍に増えます。
つまりpH6はpH7の10倍H+があることになります。
逆に、pH8はpH7よりも分母の数が一つ多くなりますので、1/10の水素イオン濃度となるのです。
水のpHを左右するもの
炭酸ガスが水に溶けると水は酸性を示します。
水に炭酸ガスが溶けると
H2O + CO2 → H2CO3(炭酸) を形成します。
そこから炭酸はさらに次のような2段階の電離をおこし、H+を生じます。
H2CO3 → H+ + HCO3-(重炭酸イオン)
HCO3- → H+ + CO3-- (炭酸イオン)
ここで発生した H+ が酸性を示すわけです。
池の水に植物プランクトンが繁殖して緑色をしているような場合、日中は植物プランクトンが太陽光を浴びて盛んに光合成を行います。炭酸ガスは光合成に必須の材料ですので、池の中の炭酸ガス(炭酸)は太陽が出ている間は消費され続けることになります。日の出を最小値として夕方までの間pHは上昇し続けます(アルカリ側に移行します)。
逆に夜になって光合成が止まると、夜明けにかけてpHは下がり続けます(酸性側に移行します)。
その理由は植物プランクトンは光合成と同時に呼吸もしていますので、一方的に炭酸ガスを消費するばかりでなく、常に炭酸ガスも吐き出しているからです。
日中は炭酸ガスの消費量が排出量を上回るため炭酸ガスは減り続けますので、pHは上昇します。
一方、夜間は排出するだけですので増加し続けます。
つまり光合成による炭酸ガスの消費量によって日中はpHが上昇し続け、夜間は下降するのです。
従って池のpHを定時観測するような場合は毎回の測定時刻を決めておかないと、せっかくの測定値が無意味なものになってしまいます。
炭酸ガスの存在によってpHが上下することをご理解いただけたと思います。
実は水槽環境では炭酸ガス以外にもう一つpHに関係する要因があります。
飼育生物に与えた餌の残りや排泄物中の脂肪や炭水化物は細菌によって炭酸ガスと水とに分解されますが、タンパク質はアンモニア(NH3)やアンモニウムイオン(NH4+)になります。
アンモニウムイオンの一部は植物の窒素肥料として水草や付着藻類、褐虫藻などに吸収されますが、大半はアンモニア酸化細菌によって酸化され亜硝酸(NO2-)となり、さらに亜硝酸酸化細菌によって硝酸(HNO3)になります。
この硝酸はほとんどが電離して
HNO3 ⇔ H+ + NO3-
となり、この H+ によって酸性を呈します。
また、アンモニアが亜硝酸に変えられる時には
2NH3 + 3O2 → 2NO2- + 2H2O + 2H+
となり、ここでも必ず H+ が発生します。
いずれにせよ飼育生物に餌を与える限り、その成分であるタンパク質は硝化細菌の働きによって H+ の供給源となるため、飼育水のpHは必ず酸性側に傾く宿命にあります。
酸性の指標となるH+の供給には、炭酸ガスの溶け込みか濾過細菌による窒素成分の硝化過程もしくは硝化結果としてもたらされる2つの経路があるのです。
一方、アルカリ性を示すのは水酸イオン OH- です。
水槽内での水酸イオンはカルシウムイオン(Ca++)やマグネシウムイオン(Mg++)が加水分解して水酸化カルシウム(Ca(OH)2)や水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)として水中に存在すると考えられます。
Ca(OH)2 ⇔ Ca++ + 2OH-
Mg(OH)2 ⇔ Mg++ + 2OH-
これらの物質は硬度と密接な関係を持っており、溶解している炭酸ガスが一定であると仮定した場合に硬度が高くなればpHが上昇し、アルカリ性を示すのは上記のOH-によるものと考えられ、炭酸硬度物質は重炭酸塩として存在することになります。
硬度が高い水槽ではpHも高く、このpHを下げるには炭酸ガスを溶かせば良いのですが、その溶存量が 40mg/ℓ を超えると飼育生物に危険が及びます。
pHを下げる目的で炭酸ガスを用いるのはかなり危ない橋を渡ることになるのです。