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鉄が守る地球上の生命

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鉄が守る地球上の生命

鉄が守る地球上の生命

2024/12/15

 鉄が守る地球上の生命
 

 

地球は鉄の惑星

 

 地球に生命の誕生を促し、またその生存を支えてきたのは鉄であるといったら皆さんは驚かれますか?

地球上に存在する鉄の量は32~40%で、すべての元素の中で最も多いとされています。

一方太陽系にある鉄の存在量は0.003%質量といわれていますので、地球上の鉄の多さは際だっています。

地球は水の惑星といわれていますが、実は鉄の惑星なのです。

 

 宇宙空間には宇宙線や太陽風など生命に致命的なダメージを与える物質が飛び交っています。

太古の地球上にはそれらの有害物質が何の制約も受けずに降り注いでいました。

そのような環境にはすべての生命体が対応できず、地球上には全く生き物がいませんでした。

 

 現在の地球の外周には地磁気とオゾン層という2つのバリアーが形成され、地表においても安全に生命活動が営まれるようになっていますが、その形成には生命の進化と同様に長い年月を要し、またそれらが作られるに至った経緯があったのです。

今現在においても地球上には生命にとっては大きな脅威となる物質が降り注いでいます。

人間はもとより様々な生命体が生きていられるのは、これらの有害物質から私たちを守ってくれるガードシステムが地球の外周で機能しているからです。

 

 その一つが地磁気ですが、この恩恵の形成には鉄の存在が大きく関わっていました。

原始の地球には大小様々な隕石が落下し、その衝突エネルギーで高温となった地表はどろどろに溶けた液状となり、様々な金属は自らの重さで地球内部に沈んで行きました。

地球の中心部には鉄が主成分となる液状金属の核ができたと言われています。

そしてさらにその中心部では高圧のために鉄が固まり、固形物である内核と呼ばれるものができました。

これに対して液状の部分は外核と呼ばれます。

液状の外核は地球の自転のために一定方向に流れ、電気を起こします。そのため、地球全体が大きな磁石になり、そこから生じた地磁気が地球全体を覆うようになりました。

高エネルギーの宇宙線や太陽風は地球の外周を覆う地磁気によって遮られることとなりました。

また海中の生物が作り出した酸素はやがて海水中の飽和状態を経て大気中に放出されましたが、それらの酸素の一部はオゾンへと姿を変えて大気の上層にオゾン層を形成しました。

オゾン層は地球に降り注ぐ紫外線を遮断する機能を持ち、有害な紫外線から地球上の生命を守る働きをするようになったのです。

 

 

原始の海には鉄がたくさん溶けていた。

 

 鉄の大部分は地球の中心部に沈んでしまいましたが、それでも地表にはまだたくさんの鉄が残っています。現在の地殻には4.7~7.1%の鉄が存在すると言われています。

40億年程前には地球が冷えて海ができました。

現在の海水はpHが8以上もあるアルカリ性ですが、当時の海水は原始大気に大量に含まれていた塩化水素の影響で強い酸性でした。

そのため岩石中の鉄は海水中に大量に溶け込んでいたのです。

酸素を呼吸して生きている現在の私たちには想像もつかないことですが、当時の海水中には(もちろん陸上にも)遊離した酸素が全くありませんでした。水素や炭素と結合した水や二酸化炭素としては存在したのですが、O2としての単独の酸素分子はなかったのです。

従って鉄は酸化されることなく、溶解物(鉄イオン)として海水中にとどまることができました。

 

 生物の細胞液の組成は海水に似ていて、生物が海で生まれた証拠とされていますが、鉄や一部の金属は特別に濃く、鉄にあっては海水の3万倍もあります。

それは生命が誕生した時の海水中には鉄をはじめとしたそれらの金属がが多量に溶けていたことを暗示しています。

ところがある理由でそれらの金属がほとんど沈殿してしまい、生物が利用しにくくなってしまったため、生物は鉄を確保し、蓄えておくという手段を会得したのです。

その結果として生物体内の鉄の濃度が高く保たれているのです。

 

 

酸素は生命体が作り出した。


 地球が地磁気によって守られていることはすでに説明しましたが、最初の頃は地磁気の力もさほど大きなものではありませんでした。

やがて地球が冷えて内核の形成が進み、地磁気が現在と同様の強さを持つようになりました。

その結果今まで生命体の存在が許されなかった浅海の安全性が高まりました。

それは太陽光の恩恵を受けられる生物の活躍の場が徐々に増えていったことを意味します。

 

 そこに登場したのがシアノバクテリアの仲間でした。

シアノバクテリアは進んだ光合成システムを持ち、太陽光のエネルギーを使って二酸化炭素と水を原材料として有機物を作り出すことができるようになりました。

そしてその際に排泄物として放出されたのが酸素だったのです。

酸素のない世界に生息していた生物にとって酸素は「猛毒」でした。

現代でも問題視される「活性酸素」と同じ感覚で捉えてみればわかりやすいと思います。

 

 シアノバクテリア自身は自らの排泄物である活性酸素を分解する酵素を持っていたとされています。

すなわち本来なら自らの排泄物である酸素の毒性によって繁栄にブレーキが掛かるはずであったシアノバクテリアでしたが、酸素の弊害をコントロールするメカニズムを併せ持ったことにより、当時の地球環境の中ではまさに一人勝ちの状況となったのです。

 シアノバクテリアのピークは19億年前に訪れますが、その繁栄期間中酸素を排泄し、地球環境を汚染し続けました。

その結果それまでの生物界の主役であった「嫌気性生物」は酸素の少ない海底などに追いやられることとなりました。

 

 

環境破壊を救ったのは鉄であった。

 

 当時の海水中には二価の鉄イオンが大量に溶けていました。

シアノバクテリアの排泄する酸素は、まずこれを酸化して三価の鉄イオンに変えて行きました。

三価の鉄はさらに酸化されて水酸化鉄となって沈殿し、海水中の鉄イオン濃度は徐々に減って行くこととなったのです。

海水中の金属イオンの中でもっぱら酸素を引き受けて無害化したのは鉄イオンだけでした。

やがて生物は増え続ける酸素の弊害に対処する機能を鉄を利用することで備えることができたのですが、その機能を獲得するまでの進化の時間を稼げたのは海水中の鉄イオンの量が極めて多かったからだといえます。

 

 

鉄を求めて陸上進出

 

 酸化するターゲットである鉄が尽きてくると海水中には遊離の酸素が溶け込み、やがて飽和量に達すると気体となって水界から離れ、大気中に貯まって行きました。

酸素呼吸は発酵よりもエネルギー効率が良いため、やがて酸素を利用する(呼吸する)生物が増え、急速な進化を始めました。

10億年から7億年前に掛けて大気中の酸素濃度が急上昇して現在のレベルに近づきましたが、このころには大気中の遊離酸素からオゾン層が形成され有害な紫外線も遮断されるようになり、海面において効率の良い光合成が安全に行われるようになったのです。

こうして海中の鉄はほとんどなくなってしまうと、逆に生命が必要とする鉄が不足する事態となりました。

生物が地上を目指したのは、そこには鉄があったからなのです。

鉄がほとんどなくなった海中に比べて陸上の岩石は数%もの鉄を含んでいました。

シアノバクテリアや真核藻類、地衣類などのうち鉄を溶かし出す能力を持ったものから地上に進出を始めましたが、やがて根を持つ植物が繁栄を始めました。

これらに付随する動植物の遺体が分解された腐食物質に含まれるフミン酸やフルボ酸が鉄と作ったキレート化合物は川に流れ出し、やがて再び海に鉄を供給することとなりました。

陸上に動植物が進出したことにより、海にも再び豊かな生物相が呼び戻される結果となったのです。

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