バクテリアについて考える その2
2024/12/16
水槽の世界に話を戻しましょう。
では私たちが水生生物を飼育している水槽という環境には一体どのくらいの細菌が棲めるのでしょうか。
またそれは何によってコントロールされるのでしょうか。
自然界の生態系には、食物連鎖の底辺を構成する有機物を作り出す多種多様つ大量の生物が生息しています。
一つは太陽の光をエネルギーとして有機物を作り出す光合成を行う生物群です。
植物プランクトンや、無脊椎動物の体内に共生する褐虫藻などの単細胞の微細な生き物から、小はアオミドロから草原をなす草本類、果ては樹高数十メートルの巨木までに及ぶ多細胞の植物群が数えられます。
かれらは地球上の炭素循環に関わる極めて重要な存在で、そこで作り出される有機物がなければ食物連鎖そのものが成立しませんし、光合成が何らかの事情で阻害されることになれば大気中の二酸化炭素の分圧はますます増え続け、地球に大きな気候変動をもたらし生命体の存在そのものを許さぬ世界が訪れることになります。
現在も着々と増え続ける大気中の二酸化炭素を海底の深部に沈めてしまおうと海中の植物プランクトンを増やす取り組みも研究されていますが、実現にはまだ時間が掛かりそうです。
一方光合成以外の有機物を作り出す生体反応も知られており、海底火山の熱水孔周辺では硫化水素などを原材料とした化学合成も行われ、太陽光の届かぬ暗黒の世界での食物連鎖にも注目が集まっています。
近年の研究では、地球上の生命体の出現のルーツはこれらの化学合成にあるのではないかという説も唱えられています。
いずれの方法にせよ、地球上には無機物から有機物を作り出す生命体のグループがおり、この栄養方法を独立栄養と呼び、それらの生物群を独立栄養生物と呼びます。
一方自らは栄養を作り出す手段を持たず、他の生物を捕食することで栄養を得る方法で生きている生物群もいます。
その栄養方法を従属栄養と呼び、それらの生物群を従属栄養生物と呼びます。
池の水が緑色になるのは植物プランクトンの体内の葉緑素のためです。
彼等は独立栄養により水の中の肥料成分(無機物)を吸収し、太陽エネルギーを使って自らの身体(有機物)を作り出します。
やがて彼等を捕食するワムシやミジンコなどの微生物が出現すると水の緑色は徐々に薄まり、その増殖が著しい場合には短期間の内に透明になってしまうことすらあります。
ワムシやミジンコは植物プランクトンという有機物を捕食することで従属栄養を行ったことになります。
ここから先の食物連鎖ではすべて従属栄養が繰り広げられ、食物連鎖のピラミッドの上位になればなるほどその個体数は少なくなり、有機物の生産量と消費量のバランスが保たれる自然の摂理が働くようになります。
私たちの水槽にも大変重要な役割分担を担う細菌群が生息します。
硝化菌という名前で一括りにされていますが、水槽内の飼育生物に与えられる餌を由来とする窒素分の酸化反応に関わっています。
濾過槽のような水通しの良い環境で濾材の表面にコロニーを作って仲間を増やします。
濾過槽は別名「硝化槽」などと呼ばれることもあります。
彼等は水中のアンモニアや亜硝酸などの生物に有毒な窒素化合物を酸化して、比較的無害な硝酸(塩)に変える過程でエネルギーを得ます。
酸化には水中の遊離酸素(O2)が使われますので、濾過槽には常に飼育水を通過させて溶存酸素の供給に努めなければなりません。
濾過槽のメンテナンスを行うときにこのセオリーを忘れますと、硝化菌を大量に殺すことになります。
一方水槽内で飼われている魚介類は日々飼育者の投入する有機物(餌)を摂ることで生きながらえています。
また飼育生物は餌の分解物でもある排泄物を日々水槽内に放出する立場にもありますから、ある意味では飼育生物も人間同様に有機物の供給者としての立場に立つとも言えます。
水槽内に放出された排泄物や餌の食べ残しである「残餌」も立派な有機物ですから、当然のことながら水槽内には飼育生物以外にもこれらの有機物によって生命をつなぐ生物群が出現します(どこからかタネが飛び込んでくるのでしょう)。
彼等はそれらの有機物を直接捕食したり分解したりして栄養源として取り込んで生きながらえており、自ら有機物を作ることはしませんのでこれも従属栄養生物と言えるでしょう。
彼等がいなければ水槽内には残餌や糞が堆積するばかりですから、その存在なくしては水槽内の環境は維持できませんし、硝化菌たちが必要とするアンモニアの供給も飼育生物の代謝産物としてばかりでなく、微生物による分解過程から供給されるものも少なからずありますので、従属栄養細菌が独立栄養細菌に餌を供給していると考えられる逆の一面にも注意を払わなければなりません。
ことほど左様に独立栄養細菌と従属栄養細菌は併存してこそ炭素や窒素の物質循環が成立するのです。