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バクテリアについて考える その4

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バクテリアについて考える その4

バクテリアについて考える その4

2024/12/16

生きていなくとも良いバクテリア


 菌は生存競争に勝ち残るため、子孫のために体の中に有益な成分を溜めたり体の外に分泌したりすることは前述しました。

そしてその成分によっては他の菌と共存できたり、場合によっては相乗効果によって単独で生存するよりも活性が高まる事もあるというお話もしました。

人間の健康維持に大きな関わりを持っているとされる腸内細菌の存在が近年クローズアップされています。

その分野では

・プバイオテクス

 

・プバイオテクス

 

という一文字違いのよく似た二つの用語が使われます。

 

 プロバイオテクスとはお腹の腸内細菌のバランスを整え、腸内の異常状態を改善し、健康に良い影響を与えてくれる生きた微生物のことです。

つまり乳酸菌やビフィズス菌などの生きている菌群を指します。

一方プレバイオテクスはプロバイオティクスの働きを助ける物質のことです。オリゴ糖や食物繊維などが代表的なものとして知られています。

こちらは生きていなくとも良いのです。

また乳酸菌飲料に含まれている乳酸菌群の大部分は強酸である胃液によって殺されてしまいますが、乳酸菌飲料を摂ると体調が良くなることは経験的に知られています。

この場合もプロバイオテクスとしてではなくプレバイオテクスとしての効果がもたらされるからです。

飲料に含まれる腸内細菌の活性を高める成分や乳酸菌の体内に含有される体液などが作用しているものと考えられます。

 

 私たちが水槽の環境維持のために用いるバクテリア資材についても同様の概念が当てはまります。

硝化菌や脱窒菌、バチルス菌などは水槽内で彼等が働くことを前提として投入するわけですから、肝心の菌群は投入時に生きていなければなりません。

またすでに水槽内で勢力を伸ばしている「先住の菌」たちに負けずに定着するためには相応の「数」が必要になります。

飲まず食わずでヘロヘロになった新参者の菌がほんの少し飛び込んだとしても彼等の運命はまさに風前の灯になってしまうと思いませんか?

そんな菌同士の戦いの様を想像してみると、市販のバクテリア資材の在り方には大きな不安や不信を感じてしまうのです。

 

 一方プレバイオテクス的な意味合いで投入するバクテリアとしては、その代表格として「光合成細菌」の名前が真っ先に浮かんできます。

「PSB」などとも呼ばれることもある、あの赤い色をした液体です。(日本動物医薬品が出している「たね水」と言う商品は緑色をした光合成細菌です。「たね水」は真水で培養すると赤くなってしまいます。)

最近は同じPSBがビールの名称として使われることもあり、だんだんややこしくなっています。

光合成細菌は通常塩分のない真水で培養することが多く、淡水の水槽に投入された場合は生きた光合成細菌の直接の働きを期待することができるので、この場合はプロバイオティクスと呼ばれてもおかしくはありません。

ところが多くの光合成細菌は塩分耐性が低く、塩分を含む培養液ではなかなか増やすことができません。

しかし海水水槽に投入してもかなりの効果があることは私も含めて多くのユーザーが経験しています。

その場合には光合成細菌は海水中では生きていられませんから、菌が働いたのではなく何か効果を引き出す有効な成分、つまりプレバイオティクスが水槽内に生息する既存の細菌の活性を高めたと考える必要があります。

 

 光合成細菌が生きているに越したことはないのですが、彼等を培養するときに作り出される「光合成細菌の子孫繁栄に有効な物質」が培養液の中に大量に存在するのです。

あの赤くて臭い液体の中には、生きた光合成細菌と一緒にこれらの有用成分がたっぷりと含まれているのです。

 

 土壌の中には「放線菌」と呼ばれる菌がいます。彼等は植物の病気を引き起こす病原菌に対してそれをコントロールする拮抗作用を示します。

つまり土壌に放線菌が増えると植物は病気になりにくくなるのです。

私たちがよく耳にする抗生物質の一つに結核の特効薬として知られるストレプトマイシンがあります。

これは放線菌(ストレプトマイセス属)から作り出されたことからその名が付けられました。

人間の大腸内に棲む代表的な善玉菌であるビフィズス菌も放線菌に近い仲間です。

 

 耕作地に光合成細菌を散布すると地中の放線菌が増えることが知られています。

その理由が放線菌と光合成細菌の共生なのか、放線菌の餌として光合成細菌が取り込まれているのかは定かではありませんが、光合成細菌の体内やその培養液中に含まれる様々な有用成分が、作物への肥料効果としてばかりでなく、放線菌を増やすというステップを経て作物の健康状態にまで関与する因果関係が想像されます。

 

 水槽の環境改善に光合成細菌を用いる意味は、菌自身が生きた状態で水槽内の様々な要因を改善するという可能性もさることながら、もともと水槽内に先住している水質に関与する様々な常在菌群を、人間で言うところの腸内細菌のように、耕作地で言えば放線菌のようにその数を増やしたり活性を高めたりすることで、結果として環境改善に寄与するのではなかろうかと考えます。

この場合、光合成細菌が生きているか死んでいるかはさほど重要な条件ではなく、あくまでも菌体内や菌体外の有用物質の種類や濃度の方が意味を持っているのではなかろうかと考えています。

 

 

水槽管理に対する考え方

 

 水槽という空間はかなり特殊な環境と考えねばなりません。

管理者(皆さんのことです)は自然界とは似ても似つかぬ様々な障壁があることを知っておいて下さい。

自然界からライブロックのようなミクロの生態系を持ち込んで水槽内の浄化機能のスターターにするという、いわゆるナチュラルシステムと呼ばれるようなセッティング手法もありますが、これとて立ち上げ後の周辺環境は自然界とは全く異なる訳ですから、未来永劫スタート時の微生物の顔ぶれが維持繁栄し続けるなどとは考えられません。

ナチュラルシステムの構築に日夜努力されている皆さんには誠に申し訳ありませんが、システム立ち上げ後おそらく数ヶ月後には、当初の生態系とはかなり   異なった住民(細菌や微生物)が主役になっている可能性を否定できません。

結局は水槽という人為的な環境条件にうまく適合できた住民が市民権を得て勢力を拡大し、その後の水槽環境そのものをコントロールして行くという自然の摂理が働くのだと私は考えることにしています。

 

 その結果として、安定状態に到達した時点の微生物組成がライブロックのそれと同一かどうかは神のみぞ知るところです。

ナチュラルシステムの発想を否定するつもりはありませんが、モナコシステムにせよベルリンシステムにせよ、サンゴを飼うことはできても魚介類を飼うと破綻するシステムであったことは多くのチャレンジャーの挫折が立証しています。

つまり人間が管理する水槽という特殊な環境下では、給餌によってもたらされる窒素負荷を排除しきることはできなかったのです。

水換えや脱窒装置の組み込みなど二次的な手法を併用することでかろうじて安寧を維持しているという極めて脆弱な実態を認めなければなりません。

サンゴなどの無脊椎動物を主に飼育するナチュラルシステムでは、強力な照明設備を設けることで共生藻が無機栄養によって生産する有機物がその水槽環境内におけるの唯一の栄養源であり、殆ど給餌をしないという魚介類の飼育とは全く異なる前提条件の違いがあります。

 

 私たちが忘れてならないことは、どのような高性能の水槽システムであってもその根幹は細菌群や微生物が担っており、高価な周辺機器も添加剤も所詮それらの生物の働きを補完するだけの存在でしかないと言うことです。

水槽という人為的な生態系の底辺にあるミクロの生態系の維持と活性化こそ新しい水槽管理手法の原理原則となるのではないかと愚考いたします。

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