ふやしてPSB
2025/01/15
光合成細菌は私たちでも増やすことのできるバクテリアです
ふやしてPSBは光合成細菌を培養するための餌です。
光合成細菌を増やすにはその用途に応じていろいろな餌が用いられていますが、餌の種類によってできあがる培養液の色合いや成分組成も微妙に変わってくるようです。
ふやしてPSBは水槽管理に光合成細菌をお使いになりたい一般のユーザーでも簡単に光合成細菌を増やせるように、餌の内容や添加方法を工夫しました。
光合成細菌は培養の楽なバクテリアではありますが、私たち素人でも増やせるもの、専用の装置がないと増やせないものなど様々な種類があります。
通常、バクテリアが増えたかどうかを確認するには、顕微鏡などの専門的な道具立てが必要ですが、光合成細菌においては菌の密度が増すと、培養液の色合いが濃くなってきますので、初心者にも確認がしやすいという利点があります。
光合成細菌の種類
光合成細菌は大きく分けて次の3つのグループに分けられます。
1 紅色非硫黄細菌
有機酸等を食べるが、硫化水素も食べる。酸素があっても増殖するため、素人でも培養しやすい。
2 紅色硫黄細菌
硫化水素をよく食べる。酸素があるとほとんど増えない。少し難しい。
3 緑色硫黄細菌
緑色の光合成細菌。硫化水素をよく食べる。酸素があるとまったく増えない。素人には歯が立たない。
このような分類となります。
培養の難易度
私たちが培養にチャレンジして簡単に増やせるのは、紅色非硫黄細菌のグループになります。
それぞれのグループの中にはまたいくつかの種類が混じっていて、単独の種類のみを純粋に増やすことは素人にはほぼ不可能と思ってください。
とくに緑色硫黄細菌を培養すると、めざす緑色ではなく、ことごとく赤くなってしまうのは、種菌として用いた緑色硫黄細菌に紅色非硫黄細菌が混じっていて、酸素を完全にシャットアウトできない環境で増やそうとしたため、緑色硫黄細菌は全く増えないのに紅色非硫黄細菌ばかりが増えてしまった結果なのです。
いずれにせよ、光合成細菌の種類によって、その働きに極端な差があるとは思えませんので、さし当たって光合成細菌というものを増やしてみようとチャレンジされるのであれば、増やせるものなら何でも良いという割り切りが必要でしょう。
種類によって菌体内の体内成分にも微妙な違いはあるのでしょうが、大きな差はないと考えています。
私たちが光合成細菌に求めるものは、水槽に投入して水質環境が改善されるかどうかと言う点だけですから、その用途に関しては赤でも緑でも良いことになります。
それよりも素人にも簡単に増やせることの方が大切な要件になると思います。
培養に必要な条件
光合成細菌の培養は誰にでもできますが、気温の高い初夏から秋にかけてはエネルギーコストを一切使わずに増やせます。
「ふやしてPSB」を培養液の0.3~1パーセント程度投入するだけで、あとは気温と太陽光が菌を増やしてくれます。
光合成細菌が増殖する条件としては 温度 光、そして餌の3つが必要です。
光合成細菌は、もともと私たちの身の回りで活躍しているものですから、特別な培養装置を必要とすることはありません。
取りあえずはペットボトルがあれば事足ります。
ただし、光と温度については季節変化がありますから、増やしやすい時期と増やしにくい時期があることは致し方のないことです。
増やせる時期に増やしておき、増やせない時期にはそのストックを使えば良いだけのことなのですが、増やしにくい時期に増やそうと様々な工夫をされる方も少なからずいらっしゃいます。
光合成細菌の活性が最も高まるのは35~40℃前後だとされています。
それ以上に温度が上がると、繁殖スピードが遅くなったり、最悪の場合は死んでしまうこともあります。
また紫外線の強い時期を好む傾向もあるようです。
ちなみに光合成細菌は大気圏にオゾン層が形成される前の太古の時代から地球上に棲んでいた菌で、その頃は紫外線がダイレクトに地上に降り注いでいました。
他の菌が死んでしまうような紫外線を浴びても光合成細菌はほとんどダメージを受けないようです。
その意味で、5月、6月は最も増やしやすい期間と考えています。
7月、8月は温度が高くなりすぎるため、風通しの良い日影などを選ばざるを得ませんので、光の条件が劣るようです。
9月、10月は2番目に良い季節ですが、紫外線の部分では春先にかないません。
寒冷期にも増えないことはないのですが、初夏の圧倒的な増え方には到底及びません。
また失敗も多いようで、ふやしてPSBを購入されたお客様から「色が変わらない」というお問合せが増えるのもこの時期です。
光合成細菌の栄養組成
光合成細菌の赤い色はカロチノイドと呼ばれる色素成分で、生物には大切な抗酸化物質です。
またビタミンB12の含有量が生物中で最も多く、ミジンコの培養などには絶大な効果を示します (ビタミンB12が不足するとミジンコは増えません) 。
体内成分の多くはアミノ酸で、植物の肥料としては大変効率の良いものです。
光合成細菌が農業分野で最も多く使われているのはその為ではないかと思います。
水草水槽に光合成細菌を投入するようになってからは一度も肥料を与えたことはありません。
アミノ酸は植物が光合成で作り出す最終的な産物ですから、それを直接取り込むことができると、肥料成分からアミノ酸を作り出すためのエネルギーを他に振り向けることができるようになります。
水草の生長が良くなる理由です。
光合成細菌は増殖をする際に、菌体外にもいろいろな有用成分を放出します。
実はあの赤い液体 (菌体と培養液の混合物) そのものにも菌体単独に劣らぬ有用成分が含まれており、それらは菌体の働きとは別に他の微生物の活性を高め、水槽環境の改善に役立ちます。
プロバイオテクスとプレバイオテクス
腸内細菌の世界では腸内で様々な活躍をしてくれる菌そのものを「プロバイオテクス」、腸内細菌を元気にしてくれる様々な成分のことを「プレバイオテクス」と呼んで区別します。
「ロ」と「レ」の一文字の違いだけですが、その境は意外と曖昧なもののようです。
皆さんが良く召し上がる乳酸菌飲料も大部分は胃液によって殺されてしまい、生きて腸内にたどり着けるのはごくわずかです。
それらの幸運な乳酸菌は確かにプロバイオテクスとしての評価が得られますが、たどり着けなかった大部分の不運な乳酸菌も、無駄死にかというと必ずしもそうではなく、死んでしまった彼等の体内成分が、もともと腸内に住んでいる他の腸内細菌の活性を高めるプレバイオテクスとしての働きをすることがわかっています。
つまり乳酸菌はプロバイオテクスでもあり、プレバイオテクスでもあるのです。
光合成細菌にも同じような概念が当てはまります。光合成細菌の培養は、通常淡水で行うことが多いのですが、淡水育ちの菌を海水水槽に入れても効果を感じることがしばしばあります。
塩分濃度の高い海水中に投入された光合成細菌は、おそらく短時間のうちに死んでしまい、本来の菌自身の働きを期待することはできないはずですが、それでも明らかな効果が感じられるのは、光合成細菌の働きではなく培養液や死んだ菌体の体内成分が既存の浄化生物に取り込まれ、その活性を高めるからだと思われます。
水槽内には、仲間内の争いに勝ち残った様々な微生物がすでに大量に棲息しています。
いわゆる勝ち組の微生物がなわばりを作っていると理解して下さい。
細菌の世界は後から移り住んだものが、そのまま先住者と折り合いを付け、平穏に生活を始められるようなユートピアではありません。
先住者は数を頼んで新参者を排除してしまうからです。
あなたが大枚を払ってペットショップで買ってきたスーパー○○菌を入れても、彼等が水槽内のニューヒーローとして働く保証などどこにもないのがバクテリアの世界です。
光合成細菌がもたらす様々な効果は、どうやらプレバイオテクスと割り切った方が何かと納得の行くことが多いようです。
培養した光合成細菌の使い方
前述したとおり、私たちが光合成細菌に期待するのは、菌自身の働きよりも、菌の体内成分や培養液中の有用物質が、水槽内の先住菌に利用されて彼等の活性を高め、結果として水槽環境が好転するのではないかという部分です。
であるならば、質よりも量 の世界ではありませんか。
高価な光合成細菌をチビリチビリ投入するよりも、自分で大量培養した光合成細菌を、効果が感じられるまで放り込んでしまう方が結果は得やすいと思うのですが、いかがでしょうか。
光合成細菌の入れすぎで、飼育生物がダメージを被ったという話は聞いたことがありません。
ですからここでは飼育水何リットルに何ccという適正な投入量というものを明示しません。
あなたが納得できる量を使ってください。
市販の光合成細菌にもブランドのようなものがあり、商品によってずいぶんと価格差もあるようです。
そこで思うことは、メーカー製の氏素性の明らかな由緒正しい菌よりも、素人培養の うさん臭い菌 の方が、物量作戦という意味では有利ではないのかということです。
光合成細菌はケチらずに大胆に使いましょう。
それには大量の光合成細菌を手元にストックする必要があります。
だから自分で増やすのです。
何しろふやしてPSBが1本あれば、ベテラン諸氏は100リットル以上の光合成細菌を作ってしまうのですから。
培養後の光合成細菌の使い切れない分は家庭菜園や庭の草花にたっぷり与えてください。
これまで皆さんが経験したことのない素晴らしい生長を示しますよ。
弊社では自社培養の「できたてPSB」という光合成細菌も販売していますが、ふやしてPSBで培養できる菌は、それ以外の市販の赤い色をしたもの (多くは紅色非硫黄細菌であると思われます) であればほとんど増やせるようです。
ただし日本動物薬品が販売している「たね水」と称する緑色の光合成細菌は増やせません。
培養条件が大変厳しく、私たち素人が増やそうとすると、赤い光合成細菌ができてしまいます。
ついでですから「たね水」について少しお話ししておきましょう。
私の知り合いの観賞魚の問屋さんは「たね水」を「あれはいいねえ!」と絶賛しています。
おそらくプロバイオテクスとしての効果が顕著なのでしょう。
ただし値段の方も素晴らしく、1リットルで3千円以上したと記憶しています。
私のような貧乏人には手の出せない代物です。
ある展示会で日本動物薬品のスタッフから聞いた話では、培養時の歩留まりが芳しくないそうです。
その辺があの値段をつけざるを得ない理由なのだと思います。
観賞魚の問屋さんでは頻繁に魚の出入りがあり、一つの水槽を長期間使い続けることはなく、病気の蔓延を防ぐ意味でも頻繁に水槽のリセットを繰り返しているものと想像します。
つまり個々の水槽の先住菌との軋轢に配慮する必要がないのだと思います。
水槽のリスタートと同時に「たね水」を投入すれば、それがそのまま先住菌としての位置づけとなるわけで、「たね水」の持っているスーパー光合成細菌としての能力がフルに発揮されるのだと思います。
そのような問屋さんとしての特殊な条件下においては当然「たね水」が高く評価されるのでしょう。
ご存じのように立ち上げ直後の水槽には硝化菌がほとんどいませんので、アンモニアや亜硝酸の弊害から生物を守るために、頻繁な水換えが求められます。
光合成細菌はアンモニアを食べてしまう (酸化してしまう) という大変ありがたい特性を持っていますので、硝化菌が十分に増えるまで (濾過槽が熟成するまで) のつなぎとして窒素分解の代役が務まるのです。
実はこの能力は「たね水」だけにあてはまるのではなく、光合成細菌すべてが持っている特性であることを知っておいてください。
あなたが作った うさん臭い菌 もその能力を十分持っているのです。
光合成細菌をたっぷり培養できたあなたは、もう立ち上げ時の頻繁な水換えから解放されるのです。