二価の鉄
2025/01/28
鉄は全ての生命に必須の成分
私たちが水槽を維持・管理を続けていると、飼育水の成分は徐々に変化をして行きます。
何かが溜まり、何かが枯渇して行くのです。
水中に蓄積して行くものの代表格は 硝酸塩とリン(オルトリン酸) で、その量が過剰になると生物には有害な作用を及ぼしたり、水槽の美観が損なわれたりします。
一方水中の様々な成分が飼育生物や水草(海藻)、あるいは微生物によって使われ、徐々にその量を減らして行きます。
これらの過不足を補う意味で私たちが行っているのが『水換え』なのですが、水槽を手掛け始めた当初はまじめに水を換えるものの、やがてその頻度が少なくなるのが人の常のようです。
結果として水槽の景観は見苦しくなり、飼育されている生物の元気がなくなったり、最悪の場合は死んでしまうような事態を招くことになります。
水の中の成分で最初に不足してくるのが鉄分です。
水に溶けている状態の鉄は実は裸同然の姿ですので、あっという間に水中の酸素で酸化され、水酸化鉄(固形物)となって沈殿してしまいます。
植物も動物も微生物も全ての生命体は微細な細胞膜を通して様々な栄養要素を取り入れていますので、固形物となった鉄を吸収することはできません。
生物が使える鉄を供給する為には水に溶けた(イオン化した)状態でなければなりません。
鉄そのものは自然界に豊富に存在するのですが、その多くは大地の中に固形物として眠っています。
その昔、地球上に酸素がなかった頃には水の中にも大量の鉄が溶けていたのですが、生物の進化によって酸素が作り出されると、水中の鉄はすべて酸化されて沈殿してしまいました。
それからというものは水の中は常に鉄不足の状態となり、現在もその状況に変わりはありません。
水の中の生産力は鉄の存在量によって左右されるようになってしまいました。
淡水でも海水でも鉄がなければ生命は生きて行けないのです。
自然界では土中に豊富に存在する鉄は、落ち葉などから作り出される有機酸と結合して地下水、川の水を経て海に流れ込みます。
有機酸は鉄の外周をオブラートのように包み込んで酸素の酸化作用を防ぎます。
有機酸と結合した鉄は分子構造が小さいままですので、細胞膜を容易に通り抜けることができます。
このような構造を錯体とかキレートと呼びます。
自然界の大部分の生物は錯体化した鉄と遭遇することなくして本来の生命活動を営むことがはできません。
川でも海でも鉄が供給されさえすれば、そこに食物連鎖がスタートし、さらに大きな動植物のピラミッドが作り出されるのです。
水槽は鉄不足
私たちが管理している水槽においても鉄の重要性は変わりません。むしろ自然の物質循環とは隔絶された特殊な環境である水槽だからこそ鉄の供給は皆無であり、その欠乏は深刻な事態を招く可能性が高いとすら言えるのです。
水槽の全ての生物に欠かすことのできない鉄を供給するにはどうしたら良いのでしょう。
それには有機酸に守られた状態の『二価鉄イオン』を投入するのがベストです。
「二価の鉄」は自然界にある腐植酸に似た有機酸と結合した二価鉄イオンの水溶液です。
二価の鉄を定期的に添加して、飼育生物、水草(海藻)、水質浄化に寄与する微生物群の活性を維持することで、飼育生物の健康を守り、水槽の美観を保つことができます。
使い方
飼育水の鉄分の濃度は0.3ppmを維持するのが理想とされています。
二価の鉄の鉄分濃度は15,000ppmですので、60cm水槽(水量50リットル)に二価の鉄1mlを添加すると丁度0.3ppmとなります。
週に1~2回程度の頻度で投入して下さい。
皆さんの水槽が暫く水を換えていなければ、飼育水には 水溶性のリン(オルトリン酸) がかなり蓄積しているはずです。
そのような場合には投入回数や量を増やしても問題は起こりません。
なぜなら、水溶性のリンと二価の鉄が結合してリン酸鉄となり沈殿してしまうからです。
逆の言い方をすれば、水中にリンがある限り、投入した二価鉄イオンがフルに活用されることはなく、その多くが沈殿してしまうとも言えます。
沈殿によってリンの量が減れば二価鉄イオンの大部分は動植物によって有効活用されることになります。
二価の鉄を投入し始めた頃はさほど劇的な変化は感じませんが、しばらく使い続けていると徐々に効果が現れるのはその為です。
200g容器はプッシュポンプの吐出量を1mlとしました。
70g容器では0.25mlとし、小型水槽へ添加しやすくしました。